積乱雲(せきらんうん、ラテン語学術名cumulonimbus、略号Cb、キュムロニンバス)とは何らかの原因で発生した強い
上昇気流によって雲頂が時には
成層圏下部にも達することがあるような巨大な
雲の一種である。積乱雲の鉛直方向の大きさは雲の種類の中でも最大であり、最高部から最低部までの高さは1万メートルを超えることもある。また、他に
雷雲(らいうん)、
入道雲(にゅうどうぐも)などの言い方がある。
概要
積乱雲の発生原因は様々であるが、多くの場合は地上付近と上空の
温度差がもたらす大気の不安定によって生じる(すなわち不安定を解消しようとして生じる)
対流性の
上昇気流によるものであるが、地形の影響を受けることもある。よって、積乱雲は多くの場合、地上と上空の温度差が大きくなる夏場に見られるが、日本海側では冬に強い
季節風によって生じることもある。積乱雲は通常
積雲及び雄大積雲(積雲が発達したもの)がさらに発達したものである。また、一般用語としては雄大積雲を積乱雲と呼ぶこともあるが、
気象学では雲の頂点が
対流圏界面まで達して、その付近で水平に広がり始めたものを積乱雲としている。
また、積乱雲の下では、雨(
夕立ち)が降ることが多い。
積乱雲は対流圏界面の高さまで達するほど鉛直方向のスケールが大きいが、通常の場合は積乱雲の雲頂が成層圏に突入しそこからさらに発達し続けることはない。したがって、対流圏界面が天井のような形になり、そこから雲はどんどん水平に広がっていく。全体的に見ると
かなとこのような形をしていることから、この雲をかなとこ雲(anvil cloud、
かなとこ巻雲と呼ばれる場合もある)という。
かなとこ雲は、その付近の低温によって氷の結晶で構成されている。雲が圏界面付近で成層圏に突入せず、水平に広がる理由は
対流圏上部と成層圏下部の温度の違いによる。すなわち、対流圏上部では気温が-70℃前後であるのに対して成層圏下部は
オゾン層の影響で相対的に気温が高い。この気温差によって雲頂は成層圏に突入することができず、圏界面を境に水平に広がる。かなとこ雲が発生しているということは、その積乱雲の活動が非常に活発であり、地上では激しい
雷雨を伴う場合が多い。すなわち、かなとこ雲が発生している積乱雲は後に述べる積乱雲の成熟期の姿である。
また、積乱雲の多くはその雲頂あたりに、強い
ジェット気流の影響を受けて氷晶でできた
巻雲などを伴う場合がある。この巻雲は「積乱雲の毛羽立ち」と表現され、毛羽立ちがあるものを
多毛雲、ないものを
無毛雲と呼ぶ。無毛雲と多毛雲は
雲種の1つ。
積乱雲が広範囲を覆うと、その中は
太陽光が遮られて暗くなり、時には日中でも
夜のようになることがある。また、雲の中では激しい対流が起こっており、その下降気流が地上まで達して
ダウンバーストなどの突風を発生させたり、
漏斗雲をともなった
竜巻を発生させたりすることがある。
積乱雲の一生
積乱雲の一生は約数時間から
台風を伴うような巨大なものでは数日間に及ぶことがある。したがって、積乱雲は気象学では通常メソスケールの気象
擾乱として区分されていることが多い。
積乱雲は地上から見ると一つの大きな雲の塊のように見えるが、積乱雲がかかっている付近では
雨が弱まったり強まったりしており、1つの大きな積乱雲の中にいくつもの小さな積乱雲が存在していることが知られている。この小さな積乱雲を細胞に例えて降水セル(precipitation cell)と呼ぶ。積乱雲の寿命が数時間なのに対して降水セルはスケールが相対的に小さいため寿命は約30分から60分である。降水セルの一生は(1)成長期、(2)成熟期、(3)減衰期の三過程に分類される。
成長期
成長期は名前のとおり、降水セルが上昇気流によって発達していく過程である。すなわち、雲頂が上昇気流によってどんどん上昇していく。この段階では降水セルは上昇気流だけを伴い、雨粒などが発生しても上昇気流によって上方に運ばれるので、地上付近での降水はない。
成熟期
時間が経過すると成長期にある降水セルの雲頂が対流圏上部に達し、氷晶や雨粒なども十分に成長する。よって、これらの雨粒などは上昇気流に逆らって落下運動を始めるのだが、その際に
摩擦によって周辺の空気も一緒に引きずり落とし、
下降気流を発生させる。この下降気流が発生したとき降水セルは成熟期になる。この段階では一つの降水セルの中で下降気流と上昇気流が共存する。したがって、上昇気流によって下方から運ばれてくる氷晶などと落下中の氷晶が衝突してしまうことになる。この衝突時の摩擦によって
静電気が発生し、これが何度も起こることにより積乱雲が
電気を帯びる。積乱雲と地上との
電荷の違いによって、
電圧が高まると結果的に
放電が起きる。これが積乱雲による
雷の始まりである。地上で激しい雷雨が起きるのは、降水セルの成熟期である。下降気流は下降する雨粒などの摩擦によって生じるが、氷が乾燥した層を通過すると
昇華熱で周りの空気を冷やすために下降気流を増加させる。これらが次々と起こることから下降気流はどんどん強まる。なお、落雷は雲の真下でなくとも発生する場合もある。上空(真上)は晴れていても近辺(20キロ程度以内)にある積乱雲から落雷が起きる場合もあるので注意が必要である。
減衰期
を伴ったガストフロント、メキシコ
ユカタン半島にて]]
近海]]
このような過程を経て強まった下降気流はもともと上空にあったため、また
昇華によっても冷やされているので非常に低温である。結果的にこの低温の下降気流が雲の底に集まり、部分的に高圧状態となる。このような下降気流によって部分的に気圧が高まった場所をメソ・ハイ(メソスケールの
高気圧という意味)と呼んでいる。この空気が雲底から地上に向けて一気に流れ出す。最終的には上昇気流よりも下降気流のほうが強くなり、上昇気流が弱まってくる。これが減衰期の始まりである。減衰期になると降水セルは収束に向かう。
また、メソ・ハイから空気が地上に向けて一気に流れ出すとき、周りの比較的暖かい空気と衝突して、冷たい空気が暖かい空気に入り込むような形をする。これは
寒冷前線の発生のメカニズムに似ている。したがってこの部分では小型の寒冷前線のようなものができ、この線に沿って突風が吹くこともある。この線を
ガストフロントという。この際地上では、下降気流が増すことによって、残っていた雨粒がしとしとと降るなどし、最後に雲が消えるのである。こうして降水セルは一生を終える。
激しい降水が数分続いてその後突風を伴い、降水が弱まるという気象現象は多く観測されている。しかし、降水セルの一生が今述べた三段階を経るかどうかは大気の状態に依存する。三段階はかなり活発な積乱雲において起こるのであり、降水セルによっては成長期からすぐに消滅に向かうこともある。
また、先ほど述べた原因によって起こる下降気流が極端に強くなり、地上に被害をもたらすこともある。積乱雲に伴う下降気流が極端に強い場合、これを
ダウンバーストという。
降水セル及び積乱雲が一生を終えても、先ほど述べたガストフロントは残ることがある。ガストフロントはメソ・ハイが原因で起きたものなので、周りより冷たい空気からなっている。ガストフロントにさらに湿った暖かい空気が流れ込んだ場合、再びその部分に上昇気流が発生し、新たな積乱雲が発生することもある。もとの積乱雲を原因として新たな積乱雲が発生するので、積乱雲の世代交代と呼ばれる。
積乱雲の世代交代には次の様な場合もある。二つの積乱雲が並行して存在するとき、両者の積乱雲のメソ・ハイによって下降気流が同時期に発生することがある。すると二つの下降気流がぶつかるため、空気は上にいくしかなくなり、上昇気流が発生し、この上昇気流によって積乱雲が発生するのである。このような世代交代は衛星画像で見ると分かりやすい。一つの積乱雲の塊を先頭にして、その後ろにいくつもの積乱雲が続くような場合である。このような積乱雲は今述べたメカニズムによって発生していることが多い。
関連項目
外部リンク
せきらんうん
せきらんうん