共産主義(きょうさんしゅぎ、
英Communism)とは、
財産の共有を目指す
思想。一般には生産手段の私的所有を社会的所有に変えることを理想とする。共産主義思想の一つの潮流である
マルクス主義が最有力となったため両者は同一視されることが多い。この思想に基づく体制も共産主義と呼ばれる。ソ連や東欧の共産党政権下においては共産主義の低い段階を指す語として
社会主義が使われていた。
思想
マルクス、エンゲルス以前の共産主義思想
エンゲルスは1880年に発表した『空想から科学への社会主義の発展』の中で、空想的社会主義思想家として
サン・シモン、
フーリエ、
オーウェンの三人を挙げて評価・批判するとともに、社会主義の思想が空想から科学へと発展していく歴史的必然性を述べている。
マルクス、エンゲルスの共産主義論
1848年に
共産主義者同盟の綱領的文書として発表された『
共産党宣言(共産主義者宣言)』において、マルクスとエンゲルスは、
資本主義社会をブルジョアジーとプロレタリアートの階級対立によって特徴づけ、ブルジョア的所有を廃止するためのプロレタリアートによる
権力奪取を共産主義者の目的とした。この革命によって階級対立の解消、
国家権力の止揚へと向かい、各人の自由な発展が、万人の自由な発展の条件となるようなアソシアシオンを形成することが共産主義の目標であるとした。またこの中で、共産主義者はこれまでの一切の社会秩序が暴力的に転覆されることによってのみ自己の目的が達成される、と宣言した。
- 『共産党宣言』は共産主義者同盟の依頼で書かれたものであり、成立史的にはマルクスとエンゲルスの共著ではない。詳しくは共産党宣言の項を参照。
1873年に出版された『資本論』第二版には、「共同の生産手段で労働し自分たちのたくさんの個人的労働力を自分で意識して一つの社会的労働力として支出する自由な人々の結合体」についての言及がある。社会的分業の一環としての労働が私的な労働として行われる商品生産社会を乗り越えた社会についての記述であり、事実上の共産主義論と見なされている。また、直接言及した箇所には第一版の「共産主義社会では、機械は、ブルジョア社会とはまったく異なった躍動範囲をもつ」、第二版の「共産主義社会は社会的再生産に支障が出ないようあらかじめきちんとした計算がなされるだろう。」がある。
1875年、マルクスは『ゴータ綱領批判』の中で共産主義社会を低い段階と高い段階に区別し、低い段階では「能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」、高い段階では「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」という基準が実現するという見解を述べた。
エンゲルスは、
1880年に出版された『空想から科学への社会主義の発展』において、生産手段の国有化によって計画生産を実施することをプロレタリア革命の課題とした。また、
唯物史観と
剰余価値説によって社会主義は科学となった、とし、自らの立場を科学的社会主義と称した。
<!--OECD The World Economy - A Millennial Perspective-->
<!--*=== 進化論との関係 ===
共産主義を自然科学の
進化論と関連付けるのは可能である。現実にマルクスは
チャールズ・ダーウィンに進化論が
唯物史観の着想に寄与したとして資本論の第一巻を献本している。ちなみにイギリスの「共産党の若きプリンス」で知られたジョン・コーンフォードはダーウィンの曾孫である。優生学の第一人者であるカール・ピアソン?はマルクスの熱烈な信奉者だった。
マルクスは社会進化の熱狂的な信奉者であり、それは数々のメモの類や書簡で既に証明されている。マルクスがプロレタリアを革命の主体に置いたのは繁殖の問題意識から来ているという説もある。しかし、あくまで資本主義の存続を唱う社会進化論に対して、資本主義自体が淘汰されるとマルクスは説いた。これはマルクスの問題提起がより根本的なものであったからと考えられている。-->
歴史
社会民主主義の成長と挫折
ロシア革命の成功と変質
1920年代末から
農業集団化と
五カ年計画が始まり、共産党は政治だけでなく経済も完全に支配することになった。
スターリンによるマルクス主義の修正
1924年、ソ連でレーニンに代わって指導者となったスターリンは、マルクス、エンゲルスからレーニンへと受け継がれた思想をソ連の現実に合わせる形で修正した。
マルクスやレーニンにとっては、共産主義革命とは世界革命であった。後進国の革命は先進国の革命と結びつくことによってのみ共産主義へ到達できるものとされていた。しかしスターリンは、1924年に発表された「十月革命とロシア共産主義者の戦術」の中で、ソ連一国だけでも社会主義を実現することが可能だとする一国社会主義論を主張した。そして、
1936年のスターリン憲法制定時に、ソ連において社会主義は実現されたと宣言した。
農業集団化を強引に進め、農民の抵抗が激しくなると、スターリンは
1930年に、「共産主義が実現するにつれて国家権力は死滅へと向かう」というマルクス以来の国家死滅論を事実上否定し、「共産主義へ向かえば向かうほどブルジョアジーの抵抗が激しくなるので国家権力を最大限に強化しなければならない」とした。
第二次世界大戦にあたっては、「労働者は祖国を持たない」という『共産党宣言』以来の国際主義を放棄し、ロシア人の
愛国心に訴えかけて戦争を遂行した。
ナチス・ドイツに勝利した後の
1945年5月、赤軍指揮官を集めた祝宴の中でスターリンは、「私は、なによりもまずロシア民族の健康のために乾杯する。それは、ロシアの民族が、ソヴィエト同盟(連邦)を構成するすべての民族のなかで、もっともすぐれた民族であるからである」と演説した。
- また,上記の「ソヴィエト同盟(連邦)」というのは「ソヴィエト連邦・露:Советский Союз」のсoюзが日本語では「連邦」と訳されるのが普通であるが正確には「同盟」という意味であるため「ソヴィエト同盟(連邦)」といった表記をしている。(連邦を示すのはФедерацияである)
共産主義運動の多様化
共産主義運動内でのボリシェヴィキに対する批判はソ連成立以前から存在していたが、ソ連の現実があまりに悲惨であったために、ソ連の系統に属する共産主義運動の内部からも反発が生まれた。
最初に大きな影響を及ぼしたのはソ連共産党の権力闘争に敗れた
レフ・トロツキーを中心とする運動である。スターリンが
1924年に一国社会主義論を提唱したことを、世界革命の放棄であるとして厳しく批判した。また、ファシストより社会民主主義者を主要な敵と見なすスターリン派の
社会ファシズム論も批判し、社会民主主義者とともにファシストと闘うことを訴えた。ドイツでナチスが政権を獲得した後、もはやコミンテルンの再生は不可能と判断し、
1938年に
第四インターナショナルを創設した。ちなみに
新保守主義は
トロツキストが自由主義路線に転向して生まれたという説が一部である。
スターリンが死んだ3年後の
1956年、ソ連共産党第一書記の
ニキータ・フルシチョフが
スターリン批判を行ってスターリンの権威を失墜させ、世界中の共産党に大きな衝撃を与えた。それとともに同年、
ハンガリー動乱においてソ連軍が民衆の蜂起を弾圧したことは、欧米や日本で
新左翼または「
ニューレフト」と呼ばれる潮流が生まれるきっかけとなった。一方、中国などでは逆にスターリンの権威を守ろうとする潮流が生まれ、ソ連と厳しく対立することになった(
中ソ対立)。
体制の破綻と延命の試み
ソ連や東欧の共産党政権は、基本的人権や民主主義を軽視したために国民の支持を得られず、経済の発展において西側諸国をしのぐこともできなかった。その結果、東ヨーロッパの共産党政権は
1989年に次々と崩壊し、ソ連も
1991年に解体した。
中華人民共和国の
中国共産党は、
毛沢東が主導した
大躍進政策や
文化大革命によって、人的、物的に多大な損失を経験した後、1970年代後半から
鄧小平の指導で
改革開放を進め、
社会主義市場経済を標榜している。これは、一言で言えば資本主義と社会主義の混合経済であり、旧ソ連の
ネップや日本の
高度経済成長のやり方を参考にしていると言えるだろう。「発達した資本主義経済が社会主義経済へ移行する」という
マルクス主義の経済発展段階の学説に基づき、市場原理の導入によって経済を発展させ、それを基に社会主義社会を通して共産主義社会を目指すとしており、現在は資本主義社会から社会主義社会への過渡期であると、政府は主張している。なお、中国の政治は、現在でも中国共産党による
一党独裁制であるが、党員に資本家を含むなど多様な勢力を抱える政党に変質している。
北朝鮮
は独自の
主体思想を標榜し、ソ連・東欧の崩壊に伴う交易環境の悪化にもかかわらず体制を維持したが、経済は破綻、深刻な飢餓によって数十万から数百万の死者を出した。
冷戦終結後に最大の援助国ソ連を失った
キューバは米国の経済封鎖下で深刻な経済危機に直面した。その後は都市部での
有機農法での食料増産や省エネルギー政策でいくらか持ち直している。最近では
ベネズエラなどの中南米諸国との経済交流が進み、これらの友好国からの経済援助無しでは立ちゆかない状態である。
冷戦期は共産主義に対する脅威から
西側諸国は労働法制の強化や、
社会保障を充実させるなど、労働者の権利を認めざるを得なかったが、
1980年代以降経済的な規制を緩め
市場原理主義を推進する
新保守主義(
新自由主義)が台頭し、再び資本主義国の労働者が過酷な境遇に追い立てられている。それは
アメリカ合衆国や
英国、
日本など
新自由主義経済の国々で著しく、また、社会主義市場経済を標榜する中華人民共和国においても、
民工などの過酷な実態が存在する。その為、逆に
21世紀を迎えた今日こそ共産主義革命の好機だと共産主義者は主張する。
共産主義に対する批判
共産主義に対する批判はマルクス主義の「マルクス主義に対する批判」の節を
基本文献
参考文献
-
高増明・松井暁編『アナリティカル・マルキシズム』ナカニシヤ書店、1999年
- ジョン・E・ローマー『これからの社会主義』伊藤誠訳、青木書店、1997年
-
的場昭弘・内田弘・石塚正英・柴田隆行編『新マルクス学事典』弘文堂、2000年
- 篠原敏昭・石塚正英編『共産党宣言――解釈の革新』(御茶の水書房、1998年)
- 植村邦彦『マルクスを読む』青土社、2001年
関連項目
きようさんしゆき
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