15世紀から
16世紀頃のドイツに実在したと言われる“
ドクトル・ファウストゥス”の伝説を下敷きにして、ゲーテがほぼその一生をかけて完成した畢生の大作である。このファウスト博士は、
錬金術や
占星術を使う
黒魔術師であるという噂に包まれ、
悪魔と契約して最後には魂を奪われ体を四散されたという奇怪な伝説、風聞がささやかれていた。ゲーテは子供の頃、旅回り一座の人形劇「ファウスト博士」を観たといい、若い頃からこの伝承に並々ならぬ興味を抱いていた。そうしてこうした様々なファウスト伝説に取材し、彼を主人公とする長大な戯曲を仕立て上げた(なお、主人公の名前は「幸福な、祝福された」を意味する
ラテン語 faustus に由来する。
ドイツ語で「拳骨」を意味する
Faust と一致するが、偶然の一致にすぎない)。
あらすじ
プロローグ
献辞と前戯
戯曲『
ファウスト』はまず、
1797年になって初稿『原ファウスト』(Urfaust)から20年ののちにこの作品を再び世に送るにあたり、ゲーテがその心境を告白した「献ぐる詞」から始まる。次に、
インドの詩人
カーリダーサ(5世紀)作の戯曲『
シャクンタラ』に影響を受けたゲーテによって、その体裁に倣って同年に書き加えられた「劇場での前戯」(
Vorspiel des Theaters)が続き、「天上の序曲」(
Prolog im Himmel)に至っていよいよ
悲劇の本筋に入る。
天上の序曲
天使たち(
ラファエル、
ミカエル、
ガブリエル)の合唱とともに壮麗に幕開けられた舞台に、誘惑の悪魔
メフィストーフェレス(以下メフィスト)が滑稽な台詞回しでひょっこりと現れ、主(
神)に対してひとつの賭けを持ちかける。メフィストは「人間どもは、あなたから与えられた
理性をろくな事に使っていやしないじゃないですか」と揶揄し、主はそれに対して「常に向上の努力を成す者」の代表としてファウスト博士を挙げ、「今はまだ混乱した状態で生きているが、いずれは正しい道へと導いてやるつもりである」と述べる。メフィストはそれを面白がり、ファウストの
魂を悪の道へと引きずり込めるかどうかの賭けを持ちかける。主は、「人間は努力するかぎり迷うもの」と答えてその賭けを容認し、かくしてメフィストはファウストを誘惑すべく、地上に下ってゆくのであった。
第一部
ファウストが悪魔
メフィストと出会い、あの世での魂の服従を交換条件に、現世であらゆる人生の快楽・悲哀を体験させるという約束をする。ファウストは素朴な街娘グレートヒェンと恋をし、子供を身ごもらせる。そして逢瀬の邪魔になる彼女の母親を毒殺し、彼女の兄も決闘の末に殺す。そうして魔女の祭典「
ワルプルギスの夜」に参加して帰ってくると、嬰児殺しの罪で逮捕された彼女との悲しい別れが待っていた。
第二部
皇帝に仕えることにしたファウストは、メフィストの助けを借りて経済再建を果たす。その後、絶世の美女
ヘレネーと美男
パリスを求め、
ギリシャ神話の世界へと、
人造人間ホムンクルスやメフィストとともに旅立つ。ファウストはヘレネーと結婚し、一男をもうけるが、血気にはやるその息子は死んでしまう。現実世界に帰ってきた後ファウストは皇帝を戦勝に導き、報土をもらう。海を埋め立てる大事業に取り組むが、灰色の女「憂い」によって失明させられる。そうしてメフィストと手下の悪魔が墓穴を掘る音を、民衆のたゆまぬ鋤鍬の音だと勘違いしながら死ぬ。その魂は、かつての恋人グレートヒェンの天上での祈りによって救われる。
翻訳
『ファウスト』は明治時代、森林太郎(
森鴎外)によって初めて日本語に訳された。これは最初の翻訳であるにも拘らず、現在でも評価は高い。
岩波文庫版では森林太郎の名のみでゲーテの名はなく、緑帯(現代日本文学)に分類されている。1928年初版である。文庫の赤帯(海外文学)で出されているのは、ドイツ文学者
相良守峯訳である。鴎外訳は、
ちくま文庫版全集11にもある。
関連作品
『ファウスト』にインスピレーションを得た作品は多数ある。
音楽
漫画
- 『ファウスト』には、手塚治虫による漫画版が存在する。この作品は1950年に不二書房にて、描き下ろし単行本で刊行された。手塚治虫は大の『ファウスト』フリークで、後に執筆した『百物語』や『ネオ・ファウスト』に、この作品の設定を絡ませている。
- ジャンプに連載されていた武井宏之の漫画『シャーマンキング』では、ファウストの子孫という設定のキャラクターが登場している。
- 小田切ほたるの漫画『裏切りは僕の名前を知っている』では、ヴァルプルギスの夜の話がマンガで登場している。
演劇
-
1989年
宝塚歌劇団月組が第一部をもとに『天使の微笑・悪魔の涙』というタイトルでミュージカル化した。ただし結末は大幅に改変してある。
映画
ゲーム
- アニマムンディ 終わりなき闇の舞踏(animamundi darkalchemist) - 2005年に発売されたPC/MAC用ゲームソフト。ファウストやダンテ「神曲」をモチーフにしたBLゲーム。完成度は高く、根強いユーザーに支えられ、英語版を後に発売。
- Dies irae -Also sprach Zarathustra- - 2007年に発売されたアダルトゲーム。主人公がマジックウエポン「聖遺物」を使用する際に、この戯曲の一節を詠唱する。さらに敵の首領の称号が「愛すべからざる光(メフィストフェレス)」である。
関連事項
外部リンク
*