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ノミ(
蚤)とは、
節足動物門
昆虫綱
ノミ目(隠翅目)に属する昆虫の総称。
シラミと共に代表的な外部寄生昆虫。
概要
体長は1mm以下〜9mm程度の小さな虫で、世界各地・日本全土に分布する。世界で16科約200属約1,800種が記載されており、そのすべての成虫が哺乳類など
恒温動物の体表に棲み、吸血して生活する。ヒトに寄生するのはヒトノミで、日本では衛生状態の向上によって滅多に見られなくなった。しかし、
犬や
猫などヒト以外の
哺乳類や鳥類などには、多くのノミが寄生を続けており、これらヒト以外に寄生する種類のノミも一時的にはヒトの血を吸うことがある。
系統的には
シリアゲムシ目に近縁とされ、DNAを用いた系統解析からはユキシリアゲムシ科と最も近縁で、ノミ目とユキシリアゲムシ科を合わせた群に南半球固有のシリアゲムシ類であるNannochoristidae科を加えた系統が、他のシリアゲムシ目諸科の姉妹群になるとの研究がある。これに従えばノミ目は従来のシリアゲムシ目のうち、寄生生活に特化した一群であり、ノミ類のみを独立の目として扱うのは不都合ということになる。またノミ目自体は単系統の一群と見なされるが、旧来の諸科は人為分類的な多系統群や側系統群であり、見直しが必要とされる。
形態
成虫は、左右に扁平な体型で、宿主の体毛の中を動きやすいように流線型の体をしている。これは同じ外部寄生性の
シラミや
ハジラミが背腹に扁平なのと好対照をなす。体長は1mm〜9mmで、体色は褐色または黒褐色で、かたい体表に感覚毛をもつ。単眼はなく、複眼のみ。メスの方が大きく、このことから日本では妻のほうが夫より身長が高い夫婦のことを指して「ノミの夫婦」と表現する(なお、雌の方が雄より大きい昆虫は、ノミ以外にも多く存在する)。
口器は細長い口吻をもち、吸血に適した針のような形をしている。体毛の中では
翅は邪魔なので翅は退化し、飛行能力を完全に欠く。発達した後脚を持ち、体長の60倍の高さ、100倍の距離の跳躍をする事が出来る。但し着地は不安定。
生活史
卵
楕円形の粘着性のない卵で、動物の巣や地上に落下。湿度が低いと孵化できずに死んでしまう。
幼虫
細長い
蛆状。成虫の糞や動物の体表から脱落した有機物を食べて育つ。幼虫期間は1〜2週間程度で、3齢を経て蛹になる。
蛹
3齢幼虫は糸を吐いて繭を作り、その中で蛹になる。ヒトや動物が近くに来るのを待ち構え、気配を察知するとすばやく羽化し成虫となり、飛び移って吸血を始める。
成虫
成虫は寄主に寄生してから、48時間以内に交尾して産卵を始める。交尾した雌成虫は1日平均20〜50個の卵を産卵する。成虫期間は2〜4週間程度である。
習性
双翅目の
蚊や
虻などと同様、
二酸化炭素を感知して寄主を探す。寄主が死ぬと、新たな寄主を探して移動する。通常飢餓耐性を有するため、寄主から脱落しても生きていられるが、新たな寄主に寄生できないと、数日で死んでしまう。ノミ類は運動能力が高く、容易く宿主を離れる。また、シラミ類と異なり寄主を厳格に選ばない。
病気の媒介
ノミは系統の離れた寄主にしばしば容易に移行することが多いため宿主範囲は広く、通常、1種の寄主に数種のノミが寄生する。そのため、
ペストをはじめとする人畜共通の
伝染病の媒介者としても悪名高い。ペストを媒介するのはネズミのノミだが、全く宿主を選ばないわけではなく、たとえばネズミノミは人の血を吸うこともあるが、ネズミの血を吸った場合にだけ産卵することが知られている。
名の由来
日本語名の「ノミ」は、人間の血を飲むことから「飲む」の訛り、またはよく跳ぶことから「跳び」の訛りといわれる。漢字の「蚤」は、「掻きたくなる痒い虫」という意味。学名のSiphonapteraは「
サイフォン(siphon)」と「翅がない(aptera)」からで、口がサイフォンに似ていることと成虫になっても翅がないことによる。
ノミとシラミ
この両者は共に人間の代表的な外部寄生虫としてよく知られ、下記の芭蕉の俳句にあるように、並び称されてきた。ただ、シラミが動きが鈍く、体が柔らかいことで陰性な印象を与えるのに対し、ノミは体が硬く、よく飛び跳ねるなど陽性な印象がある。シラミ取りは地味な眼の込んだ作業なのに対して、ノミ取りは逃げるノミを追っかける大騒ぎになる。そのような面からか、ノミはシラミに比べ、はるかにユーモラスな存在と認識されている。
両者ともに寄生性を発達させた結果二次的に翅が退化したもので、ともにその祖先には翅があったと考えられている。
しかし、ノミ類は蛹を経る完全変態の
長翅目(シリアゲムシ目)の一部が寄生性を発達させた系統であると考えられているのに対し、シラミは蛹を経ない
不完全変態の昆虫である
咀顎目に属し、系統的には大きく異なる。
蚤のサーカス
ノミは、無脊椎動物で唯一の芸をする動物でもある。20世紀初頭までは実際に
ノミのサーカスというものが存在した。芸としては紙で作った円錐形の
スカートをノミに履かせ(実際には被せる)、号令をかけるとぴょんぴょん翔びはねるのを踊っているといって喜んだり、ノミに比べるととても大きなローラーを引っ張らせる、等があった。詳しくは
ノミのサーカスの項を参照。
慣用句
おおむね小さいものの代表として扱われる。
- 蚤の心臓
- 蚤取りまなこ
- 蚤の皮をはぐ
- 蚤の夫婦
- 蚤にも食わさぬ
- 蚤の小便、蚊の涙
文学作品における扱い
- 「のみしらみ 馬の尿する 枕もと」
- 「蚤虱 音に鳴く秋の 虫ならば わが懐は 武蔵野の原」
- 「蚤焼いて 日和占う 山家かな」
- 「よい日やら 蚤が跳ねるぞ 踊るぞや」
ゲーテ作「
ファウスト」の劇中歌に登場する。
メフィストフェレスは王様に寵愛されたノミにまつわる歌を歌い、権力者に媚びへつらう姿勢をファウストの取り巻きに見立てて揶揄する。何人かの作曲家によって曲がつけられているが、特に
ムソルグスキーの
それがよく知られる。曲中に笑い声が取り入れられているのでも有名。
関連項目
脚注
参考文献
- 石川良輔 『昆虫の誕生 - 一千万種への進化と分化』 中央公論社〈中公新書〉、1996年、ISBN 4-12-101327-1。
-
日高敏隆監修、石井実・大谷剛・常喜豊編 『日本動物大百科第9巻 昆虫2』 平凡社、1997年、ISBN 4-582-54559-9。