ベルリオーズの肖像はかつてフランス10
フラン紙幣に描かれていた。
生涯
フランス南部
イゼール県のラ・コート=サンタンドレに生まれる。ここは
リヨンと
グルノーブルのほぼ中間に位置する。父親は
開業医であり、息子が18歳の時に、家業を継がせるために
パリに行かせた。ベルリオーズ青年は
解剖学の途中で気がひるみ、それから1年後に父親の反対にもかかわらず
医学の道を捨て、音楽を学び始めた。
パリ音楽院に入学して、
オペラと
作曲を学ぶ。
- 「エクトル・ベルリオーズは、管見によると、ユゴーやドラクロワとともに、ロマン主義芸術の三位一体をなしているようだ」
スミスソンに最初こばまれると、ベルリオーズはマリー・モークと婚約するが、モークの母は娘をピアニストでピアノ製造家のカミーユ・プレイエルに嫁がせた。ベルリオーズはその頃、ローマ大賞の賞金(奨学金)を得て
ローマに留学中であった。『回想録』によれば、この時パリに引き返し、女中に変装してモーク母子を殺害し、自殺を図ろうと企んだが、
ニースにたどり着くまでに気が変わった。
ベルリオーズの手紙は、スミスソンにはあまりに情熱的に過ぎると映ったために、彼女は求愛を断ったのであるが、こうした感情によって引き起こされたといわれる『
幻想交響曲』は、驚異的で斬新であると受け取られた。この
標題音楽的な作品の
自叙伝的な性格もまた、当時としてはセンセーショナルなものと見做されたであろう。ローマの2年間の修行時代を終えてパリに戻ると、スミスソンは『幻想交響曲』の演奏を聴きに来た上、ついには結婚に至った。スミスソンは馬車から落ちて重傷を負ったこともあって、女優として下り坂にあったことも理由であろう。
しかしながら2年もすると、2人の関係はたちまち冷え込んでいった。さまざまな理由が挙げられているが、中でも言葉の壁が大きかったと推測されている。また他には、ベルリオーズはスミスソンを一人の女性として彼女の人間性に惚れたのではなく、彼女が演じる役(「
ロミオとジュリエット」の「ジュリエット」等)に惚れたために、彼女と結婚して彼女が普通の女性である事に気がつき、失望したのだとする説もある。2人は
1841年頃から別居し、
1854年に彼女が亡くなると、すでに同棲していた歌手のマリー・レシオと結婚する。
生前のベルリオーズは、作曲家としてより
指揮者として有名であった。定期的に
ドイツや
イングランドで演奏旅行を行い、オペラや交響曲を指揮した。自作だけでなく他人の作品も指揮しており、中には
リストの
ピアノ協奏曲第1番の初演なども含まれている。リストによると、指揮者ベルリオーズはリハーサルを多用する“練習魔”だったという。
ヴァイオリンの
ヴィルトゥオーソにして作曲家の
ニッコロ・パガニーニとの出会いからは『
イタリアのハロルド』が生まれ(パガニーニの依頼で書かれたが
ヴィオラの活躍が少ないのに失望した、という逸話は今日では信憑性が疑われている)、また金銭的援助も得られた。ベルリオーズの『回想録』によるならば、パガニーニは『イタリアのハロルド』の演奏を聴いて感動を表明し、2日後に「
ベートーヴェンの後継者はベルリオーズをおいて他にいない」との手紙とともに2万
フランを提供した。
遺産
ベルリオーズの作品は
1960年代から
1970年代にかけて復活を遂げたが、これはイギリスの指揮者
コリン・デイヴィスの奮闘に依るところが大きい。デイヴィスがベルリオーズの全作品を録音したため、従来あまり知られていなかった作品にも光が当てられた。デイヴィスによる歌劇『トロイアの人々』の録音は、最初の全曲録音であった。本作は、ベルリオーズの生前に完全に舞台上演されたことはなかったが、現在では復活を遂げ、定期的に上演されている。
音楽的影響
『イタリアのハロルド』においてベルリオーズは、
半音階や
旋法、
変拍子(5拍子)を採用するとともに、従来のドイツの交響曲にみられる形式的な均整感や全体的な統一感から距離を置いた。
サン=サーンスの『
動物の謝肉祭』の「象」の最初の主題は、『ファウストの劫罰』の「妖精のワルツ」から取られている。しかしながら、音域は原曲よりかなり下げられ、
コントラバス独奏によって演奏される。
音楽作品と著作
音楽作品
ベルリオーズの型破りな音楽作品は、既存の演奏界やオペラ界を刺戟した。ベルリオーズは、演奏会の段取りを自力でつけるだけでなく、演奏者への俸給も自前で調達しなければならなかった。これはベルリオーズに、経済的にも心情的にも重い負担となってのしかかった。ベルリオーズの演奏会には1,200人の常連客がついていて、入場者数を確保できたが、大掛かりな――数百人もの演奏者を要する――ベルリオーズ作品の性質上、経済的な成功は望めなかった。ジャーナリスティックな才能から、音楽評論がベルリオーズにとって手っ取り早い収入源となり、音楽会においてドラマや表現力の重要性を力説する、機知に富んだ批評文によって飢えをしのぐことができた。
著作
ベルリオーズは作曲家として最も有名である半面、多作な著作家でもあり、長年にわたって音楽評論を執筆して生計を立てていた。大胆で力強い文体により、時に独断的かつ諷刺的な文調で、執筆を続けた。『オーケストラのある夜会』(
1852年)は、
19世紀フランスの地方の音楽界をあてこすりつつ酷評したものである。ベルリオーズの『回想録』(
1870年)は、ロマン派音楽の時代の姿を、時代の権化の目を通して、尊大に描き出したものである。『音楽のグロテスク』(
1859年)はオーケストラ夜話の続編として出版された。
また、18世紀末から19世紀初頭にかけ、聖歌のみならず世俗曲でも活躍したことで最も有名なロシアの作曲家である
ドミトリー・ボルトニャンスキーを高く評価した。
主要作品
-
幻想交響曲―ある芸術家の生活のエピソード Op.14 Symphonie fantastique; Episode de la vie d'un artiste
- 抒情的モノドラマ「レリオ、あるいは生への復帰」 Op.14bis Lélio, ou Le retour á la vie(「幻想交響曲」の続編として完成)
-
交響曲「イタリアのハロルド」 Op.16 Harold en Italie (独奏ヴィオラとオーケストラのための交響曲)
-
劇的交響曲「ロメオとジュリエット」 Op.17 Roméo et Juliette
-
葬送と勝利の大交響曲 Op.15 Grande symphonie funèbre et triomphale
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序曲「ローマの謝肉祭」 Op.9 Ouverture 'Le carnaval romain'
-
夢とカプリッチョ Op.8 Rêverie et caprice (ヴァイオリンとオーケストラ)
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劇的物語「ファウストの劫罰」 Op.24 La damnation de Faust, légende dramatique
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死者のための大ミサ曲(レクイエム) Grande messe des morts (Requiem) Op.5
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テ・デウム Op.22 Te Deum
- 宗教的三部作「キリストの幼年時代」 Op.25 L'enfance du Christ
- 歌曲集「夏の夜」 Op.7 Les nuits d'été
- 歌劇「ベンヴェヌート・チェッリーニ」 Op.23 Benvenuto Cellini
- 歌劇「トロイ人」(トロイアの人々) Les Troyens (『アエネイス』を参照)
- 歌劇「ベアトリスとベネディクト」 Béatrice et Bénédict
- 荘厳ミサ(ミサ・ソレムニス) Messe solennelle
-
1825年の初演後破棄されてきたと伝えられていたが、1991年にアントウェルペンの教会で、ベルリオーズが友人に贈った総譜が発見され、1993年にジョン・エリオット・ガーディナーによって蘇演・初録音がなされた。様々なフレーズが、幻想交響曲など後年の主要作品にたびたび登場する。
- 序曲「宗教裁判官」 Op.3 Ouverture 'Les fancsjuges'
- 1827年頃に作曲。「宗教裁判官」は初期に手がけ未完となったオペラの1つ。序曲が残され、単独で演奏されるようになった他、このオペラからはいくつかの曲が他の作品(葬送と勝利の大交響曲の第2楽章など)に転用されている。
- 序曲「海賊」 Op.21 Ouverture 'Le corsaire' - 「イタリアのハロルド」と同様にバイロンの詩に基づく。
- 序曲「リア王」 Op.4 Ouverture 'Le Roi Lear' (幻想交響曲を作り上げた翌年に書かれた作品)
- 序曲「ウェイヴァリー」 Op.1 Ouverture 'Waverley' (オペラは破棄)
- 序曲「ロブ・ロイ」 Ouverture 'Rob Roy'
- 歌曲「わな」 Le trébuchet (歌曲集「ランドの花」の第3曲に含まれる)
- 叙情的情景「クレオパトラの死」 La mort de Cléopâtre (ローマ大賞受賞の前年1829年作のカンタータ)
脚注
参考文献
-
Mémoires, Hector Berlioz; Flammarion; (first edition: 1991) ISBN 2082125394
-
The memoirs of Hector Berlioz; Everyman Publishers (second revised edition: 2002) David Cairns (ed.) ISBN 185715231X
- Kamien, Roger. Music: An Appreciation. Mcgraw-Hill College; 3rd edition (August 1, 1997) ISBN 0070365210
外部リンク